京都よりも京らしく。おもてなしの心を、恵比寿で味わう。

路地をまがると、めじるしの番傘がおでむかえ。京の風情あふれる外観と、背景にそびえる超高層ビルとのミスマッチ感が時のはざまをワープするような感覚へと誘います。

一枚のいちょうの木でつくられたカウンターと、その延長につづく同じ材によるまな板。コンロもカウンター側に設置されているため、焼く、炊くなどの仕事もすぐ目の前で繰り広げられます。

大きな火鉢に炭火をおこし、炙り焼きをしたり。

お椀ものも、目の前のコンロでお鍋を見せながら。

自家製の土鍋で炊くごはんも、目の前でぐつぐつと音と香りを楽しめます。

そして、茶の湯の経験を活かし、抹茶を入れるための機能もカウンターにしつらえてあります。

築地には行きません。野菜は京都の生産者から直接送られてきます。旬の京野菜提供店として「京のふるさと産品協会」から認定されているのです。

予約は一日5組限定──。

「自分の目のとどく範囲で仕事をしたいと思っていました。そうすると、この空間が限度ですね。10年修行した京都でいちばん学んだ『おもてなしの心』を表現するためにも一日5組が限度なんです。新規のお客さまのほとんどはお客さまからの紹介なので、情報発信はしますが、いわゆる宣伝はしません」

タバコはもちろんですが、香水もお断り。というか、そういうお客さまはまず来店しません。一期一会の精神で京懐石を楽しみたい人だけの、とっておきの教えたくない環境を、店主自ら守りつづけているのです。

店という箱にとどまらず、京の食文化を伝えていく。

岡田敬一さんは、店を立ち上げる前に会社を設立しました。店よりも、まず会社だったのです。

京懐石の職人でありながら、その一方では経営者の視点をしっかりともち、店の運営や自社製品開発、飲食店プロデュースなどを手がけるために、会社の設立を考えたのです。

社名の株式会社トリート（TREAT）を翻訳すると「おもてなし」。

「『京しずく』という店はもちろん仕事のベースになっています。でも、大震災などの状況をみると、店という箱だけを維持すればいいという時代じゃないと思うようになって。もっとしなやかに多角的に仕事をしようと。それで、会社の経営を考えたんです」

自社製品のもなか菓子「百咲香-moeka-」は、お店でも楽しめますが、新宿伊勢丹でも販売しています。餡と皮が別になっていて、冷やした餡をあたためた皮に入れると最高の食感♪

全国各地の人とのつながりを活かして、土鍋のような道具や、飲食店そのもののプロデュースもしてます。

「お客さまに喜んでいただく。仕事のスタイルは違っても、すべてはそこに向かっています。一人ひとりの嗜好はさまざまなのに、メディアが料理に点数をつけたりする近頃の傾向はおかしいですね。若いスタッフにもいつも言うんですょ。私に怒られないように仕事をするな、今日ご来店されるお客さまに喜んでもらうための仕事を考えろ！ってね」

新しい考え方をもった新世代の経営者でありながら、お客さまの喜びに向かって仕事をする昔ながらの職人。そのどちらも「岡田敬一」なのです。