店主の遊び部屋に、おじゃましているような感覚。

Nゲージとは、ナインのN、つまり9ミリのレールの間隔でつくられる鉄道模型のこと。世界的な規格になっています。

若菜常男さんは、Nゲージにハマり、ついにNゲージの飲食店までオープンしてしまったほど。

「魅力にとりつかれたのは大人になってからのことなんです。5才の息子にプレゼントするために買ったNゲージに、私のほうがハマッてしまって（笑）。それから20年つづいています」

靴を脱いで入る店内は、まさに若菜さんの遊び部屋におじゃましているような感覚。

カウンターとテーブル席の先、いちばん奥に街並みのジオラマとそこを行き交う鉄道のステージ！　鉄道ファンはもちろん、そうじゃない人にもどこか懐かしく、魅力的な世界が広がっています。

カウンターに座って少し遠めから街並み全体を眺めるもよし、グラス片手にジオラマのすぐそばで鉄道が走る姿を見つめるもよし。行き交う鉄道が最高のおつまみ！

「鉄道居酒屋ですね。だいぶ年を重ねてきまして、そろそろ自分のペースで、自分のやりたいことをやってみようかなと。セミリタイヤじゃないですけど、こんな店があってもいいんじゃないかと思うんですよね」

フレンチ歴10年という経歴をもつ若菜さんの心のこもった料理もいっぱい楽しめます。

「ときどきふらっと入ってくるお客さまもいますが、ほとんどが知り合い。それも何十年というお付き合いのお客さまがほとんどなんです」

経歴のつみかさねの先に開花した、オリジナル業態。

若菜さんは、自ら牛タン専門店ややきとり屋さんを立ち上げ、20年以上も渋谷円山町で仕事をしてきました。

その頃からの常連さんがそのまま「Nゲージバー　新線」の常連さんでもあるのです。

「20代、30代のころはがむしゃらに仕事をしてきました。とくに独立した最初の1年は休みも取らずに早朝から深夜まで必死に働きました。それが苦痛とかじゃなく、大変だったけど楽しかったし、そういうもんだと思ってね。やればやるほど、自分にかえってきたしね。それに、あの時代のお客さまが今の店にも来ていただいていることを考えると、がむしゃらに仕事をしていた時代がちゃんと今とつながっていると感じています。人とのつながりは財産ですね」

いきなりの思いつきではじめた「鉄道居酒屋」ではなく、しっかりと年を重ねてきたからこそできる、若菜さんならではの業態なのですね。

食べ歩きも大好きで、休みの日にはレストラン回りを楽しみます。

「飲食の仕事は好きじゃないとね。こないだの秋には、電車でぐるり東北一周の旅にも行って来ました。飲食も大好きだけど、旅もいいね」

愛犬との散歩も若菜さんの暮らしの一部。渋谷円山町で、いい感じで楽しく人生を楽しんでいる。そんなオーラがほんのりと漂う「Nゲージバー　新線」。

あれ？　そういえば「新線」という店名。最寄り駅の「神泉」をもじったものではないですか。遊びごころもあって、いやはやなんとも、おそれいりましたm(_ _;)m